王蜜の君が主人公の巻
(読んだ本)妖怪の子預かります⑥(作:廣嶋玲子/絵:Minoru/東京創元社)
彼女、猫妖怪の王につき
6巻での出来事
▶猫妖怪りん、子どもを拾う
りんが川辺を歩いていると子どもが置き去りにされていました。猫妖怪仲間に子どもを知っている猫がいたので親元へ届けられましたが、同じことがその後5日続きます。誰がこんなことをと川辺で待っていると、そこにはその子の母親が。子どもを川へ連れて行こうとするのをなんとか止めたものの、どうやら様子がおかしい。そこに現れた猫の王こと「王蜜の君」。母親は悪いモノに憑かれていたようで、王蜜の君が悪いモノを払ったら正気に戻ったようでした。
▶婿養子の苦悩
婿入りした家でひどく冷遇されている入り婿の男性。思い詰めて訪れた水辺で喋る猫と出会います。「白蜜」と名乗ったその猫、正体は王蜜の君が猫の姿になったものでした。そこにやってきた弥助、話の流れで男性と釣りの約束をしました。次の日釣りを楽しんだ2人でしたが、前日千弥より「深入りするな」言われており、もう次に会う約束はしませんでした。その代わり鯛と猫の根付を渡します。根付を持ち帰った男性は、その夜不思議な、幸せな夢を見るのでした。
▶みおと浪人と子猫と姥猫と
親のいない子猫の面倒をみる猫の妖怪「姥猫」は4匹の子猫の世話を始めます。そこに浪人である男が4匹の子猫を家に連れ帰ったので、人目に付かない場所で見守ります。
半妖のみおは弥助の家に向かっている途中足をけがしてしまいますが、通りかかった浪人が助けてくれます。手当のために訪れた浪人の家には4匹の子猫、それから姥猫が。足の手当をしてもらい、足の傷が良くなっても子猫のことが気になって浪人の家に何度も訪れるみおでしたが、そこに猫を引き取りたいという女が現れます。でもどうにもその女の様子が変で、みおは断るとその女は暴れ出すのでした。
▶悪ガキ2人と猫首と
梅の妖怪の子ども「梅吉」と月夜公の甥「津弓」は猫姿の王蜜の君とともにイタズラに出かけます。嫁をいびり倒して追い出したという悪い噂の姑とその息子にイタズラを仕掛けに行ったのですが、そこで出会った首だけの猫「猫首」に襲いかかられます。王蜜の君のお陰で難を逃れましたが、2人に帰るように言い、王蜜の君は猫の首を追うのでした。
▶猫の王の狩り
猫首を追った先にあったのは、多数の猫を犠牲にして作られた猫塚。猫の魂を開放しようにも、なにかに囚われて王蜜の君の力を持ってしても魂を開放することができませんでした。王蜜の君は猫の王、猫にひどい仕打ちをする者を許しません。猫首という魔物を作り出した誰かを処するため「獲物は必ず仕留める」と王蜜の君の狩りが始まります。
感想
▶猫妖怪のりん、幸せに暮らしている
2巻で弥助が吉原に行った際、遊女の紅月さんにもらわれた猫妖怪のりん。今は紅月さんは身請けされて、紅月さんとりんとご主人の2人と1匹で幸せに暮らしているようです。
>>本人が「幸せ」と言っているのだから、本当に幸せなんだと思いました。ずっと幸せにくらしてくれ~~!
▶婿養子の幸せな夢
鯛と猫の根付は仲人屋さんとこの付喪神で、婿養子の男性は夜な夜なこの付喪神と釣りをしたり酒盛りしたり色んな話をして盛り上がったりと、夢の中だけは幸せでした。それをよく思わない奥さんは、その大切な根付を壊してしまいます。それに怒った婿養子、暴れに暴れて家を飛び出します。飛び出した先で仲人屋に出会い、「根付は直します、せっかく家から逃げられたのだから、これからはもっと自由に生きなくてはね」と男性を元気づけるのでした。
>>この婿養子、婿を婿とも思わないなかなかの冷遇具合だったのですが、無事婿入り先と縁を切ることができました。これからは根付とともに自由に生きてほしいと思います。
▶人を呪わば穴二つ
>>今回の「猫首」、猫の犠牲から生み出される類の呪いなのですが、呪いを実行できなかったら呪い返し(呪いが術者のもとに返る)がしっかりあるようです。呪いなんてするもんじゃないなと思います。
▶姥猫の最期
子猫を引き取ると言った女が暴れ出すのですが、みおちゃんと子猫たちを逃がすために姥猫は女と戦います。女は無事捕らえられたのですが、姥猫の命は奪われてしまうのでした。
>>子猫を守る姥猫さんは情に厚くて本当にいい猫さんだったので、亡くなってしまって悲しかったです。どうしてこんなことに、、、
▶玉雪と久蔵の協力
玉雪ちゃんと久蔵さんが、猫首になってしまった猫から家の人々を守るため協力して首猫に挑みます。
この首猫、もとは家を守る守り猫だったのに、呪いにされてしまった可哀想な猫なんです!呪いになってしまい手がつけられなかったのですが、王蜜の君が「命は助けられなかったけど、魂だけは救うから」と猫を浄化してくれました。
>>首猫からの一撃を回避するのに久蔵さんは妻の初音さんに持たされた塩で撃退します。無理やり持たされたと久蔵さんに玉雪ちゃんからの一言「奥様の言う事は聞いておいた方がいいということですね」全くその通りだと思います。
▶王蜜の君に恩を売りたい久蔵
初音ちゃんがおめでたで、生まれてくるなら男の子がいいと言う久蔵。理由は跡継ぎとかの問題では全くなく、ただの親バカ主張なのでした!
守り猫の一件で猫がいなくなった家に猫を引き取りませんかと話を持っていく久蔵さん。しかし、しばらく猫は飼えないと断られてしまいます。王蜜の君がその家の主と奥さんの夢に出て、守り猫が「傷が癒えたらまた参ります」と言うから、それまで猫がいないのはやはり寂しいからと庭に現れた子猫を飼うことにするのでした。
実はこの子猫、弥助君が預かり引き取り手のいなかった子猫で、行き先を決めるアシストをしたんだから王蜜の君に恩が売れたんじゃないか(恩を売って生まれてくる子を男の子にしてもらうんだ!)と意気込む久蔵さんでしたが、さしも猫の王である王蜜の君でもそんなことは出来ないし、しないんじゃないかな…と思う弥助くんとお付きの化け猫なのでした。
>>久蔵さん、パパになるらしいです。おめでとうございます。生まれる前から親バカ確定演出出てるの激アツですね!
今巻の黒幕
心の闇を広げる物語の語り手。その人は自分の言葉に心動かされ、闇に落ちる人々を見るのがこの上ない楽しみと言う。
かくして「作り話」は「呪い」に成った。
猫の王はそれを許さない。
>>上質な悪い人間の魂を手に入れて大変興奮気味の王蜜の君なのでした。
この黒幕と対峙するとき
「噂というものは魔と同じ、悪い噂ほど早く広まり、より早く膨らんでいく」
「言葉には強い力があるから、呪いの言葉は力を持ち、病のごとく広まっていく」
と王蜜の君は言います。
この首猫というものも、それを生み出した猫塚という呪物も、最初は黒幕の作り話から始まったものでした。それが人々の噂になり、広まり、呪いとしての力を付けていきました。
>>「言葉の力は強い」ということを肝に銘じておこうと思いました。
黒幕を処した後も、この噂自体がなくなるわけではありません。なので王蜜の君は別の噂を流すことにします。
「猫塚の呪いをやった者はむしろ不幸な目にあった」
「猫塚の神様は良い神様だから、良い神様には良いお願いをしないとね」と。
今巻の好きなとこ
今回の主人公より主人公している王蜜の君。猫の姫と呼ばれていますがもはや振る舞いが王です。
妖猫や化け猫は皆彼女を敬いますし、彼女も全ての妖猫や化け猫、それから猫たちを大切にしています。
今巻は「人とはそれほどによいものなのか?」という疑問から始まった退屈しのぎでした。猫になって人と触れ合って、よいものと思ってくれたなら良いのですが。
王蜜の君には悪人の魂をコレクションする趣味があります。序盤に出てきた子を置き去りにする母親の魂がキレイで「こんなもの要らない!」と憤慨するシーンはなんだか可愛らしかったです。
猫をよこせと暴れた女を取り押さえた浪人が、自身の持つ不安から女が喚く言葉が消えないと悩むのですが、王蜜の君は「心配しなくてもそんなことにはならない」「自分を信じられないなら、わらわを信じろ、わらわの言葉を信じろ」と諭します。王蜜の君がただただかっこいいです。
この後浪人に「猫に親切にして損はない、運をつかめるといいのう」とある場所へ行くように伝えます。浪人が底に行ってみると…。その後の顛末はかわら版になったとか。
これまで自由奔放に現状を楽しんでいるイメージだった王蜜の君が、慈悲深き猫の王のイメージに固まった今巻でした。最初からそうだった?そうかも。
それから、冷遇されている婿養子の男性と釣りの後分かれる際、1巻で仲人屋から言われた
「皆が皆、同じことに耐えられるわけじゃない。ひどい目にあってるなら、辛いことがあるなら逃げてしまえばいいじゃない」「逃げた先で、また立ち直れば良い」と言う弥助君。
この言葉に助けられた弥助君が、今度はこの言葉で人を助ける側になったんだなと胸が熱くなりました。
今巻は猫がたくさんで大変楽しく、また猫が犠牲の元に生まれる呪いの話で大変「猫様になにしてくれるんじゃ!」という気持ちで読みました。
今回はここまで。
では、また次の本で。
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