時代小説版、保護猫活動の記録
(読んだ本)福猫屋~お佐和のねこだすけ~(作:三國青葉/講談社)
猫カフェもあるよ!
こんな話
突然の病で夫と死別したお佐和さん。夫の四十九日までは気丈に振る舞っていたものの、四十九日を過ぎた後、どうにも生きる希望が持てないでいた。そんなおり身重の猫「福」と出会い、一緒に暮らすことに。子猫たちが生まれ、忙しく世話をしているうちに少しずつ元気を取り戻して行きました。
第1話 猫だすけ
しばらくすると福が別の身重の猫「楽」を家に連れてきて、福の子猫たちと楽の子猫たちとたくさんの猫に囲まれて生活していきます。福がネズミ捕り名人だったおかげで、技術は遺伝するからとその子供を引き受けたいという方が現れて子猫がもらわれて行きます。他にも猫を亡くした方に新しい猫を紹介したりするうちに、猫に生きる希望をもらった佐和さんは「猫と人の縁を繋ぎたい、猫に恩返しがしたい」と考えます。
第2話 猫まみれ
佐和さんはまず、子猫たちに里親を探すこと、それからそれだけでは食べていけないので猫用の首輪や座布団を売ることを考えます。しかし、なかなかうまく行きません。猫親子も増えてしまい佐和さんはてんてこ舞いです。そんな佐和さんは人を雇うことにします。
第3話 猫づくし
ある日佐和さんが里子に出したはずの子猫に町で出会います。どうしたことかと里子に出した家に行ってみると、猫と家族が上手く行っていなかった様子。話をきいていくうちにこの家の猫との問題は解決しましたが「他の家の子達は大丈夫だろうか?」と心配になります。家々を回るとほとんどの家は猫たちが幸せに暮らしていましたが、家の事情からそうでない家もあり心を痛める佐和さん。里子に出して終わりではなく、その後の対応も考えなければと思うのでした。
感想
猫がいっぱいの一冊です。読んでいく想像の中で、たくさんの子猫がコロコロと駆け回ったり、あくびをしたり、母猫たちの子猫育てを見守ることができます。地の文を読んでいったら子猫がやんのかステップを始めてニッコリしてしまいました!
作中の事件として、子猫の置き去り事件が起きます。事件の真相は多頭飼育崩壊から助け出したものの、育てることが出来ず佐和さんちの前に多数の子猫の入ったかごを置いていきます。この子猫たちに加えて後で母猫も合流します。佐和さんは猫の世話で日常が回らなくなるくらい忙しくなってしまいます。この件は円満に解決するのですが、この本、現実でもよくある、ペットの問題が色々出てきます。ちょっと心が苦しくなりました。
読みながら「これは保護猫活動だな」とか「これはハンドメイド作家さんの苦悩だな」とか「これは!猫カフェ!!」とか、現代にも通じる活動をしていきます。物語の終盤、猫たちと遊びながらお茶や軽食をいただける猫茶家で広がるネコネコネットワーク。そこから伝説の職人との縁が出来て手ぬぐいを売ることができるようになります。少しずつですが、お商売も軌道に乗って行っているようです。
不利益が商売の転機になることも。亡き夫の兄弟子と弟子が分け合って佐和さんちで作業をしています。2人か錺職人なのですが、これまた亡き夫の別の兄弟子の手によって、自分たちの作った簪を商店に卸すことが出来なくなります。困ってしまった2人でしたが、猫をあしらった簪を猫好きの集まる佐和さんのお店に置けば売れるのではないか?ということになり、実際売り出してみるととても人気のようでした。お商売が上手く行っていく過程を見るのはいいですね。
人間の勝手な都合で不幸になる猫が登場します。解決する話もありますが、解決せず佐和さんが福猫屋へ連れ帰る子もいます。佐和さんは憤るのですが、自分が甘かったのだと反省します。それが猫茶家を始める切っ掛けになるのですが、動物を飼う責任についても考えてしまいました。
猫の面倒を見ていくうえで、慈善事業だけではやっていけないんだなと思いますし、佐和さんの苦悩や苦労は、保護猫の活動をされている方々が日々している苦悩や苦労なのかもしれないと思いました。
夫との死別という悲しいスタートでしたが、希望を持てなかった佐和さんが、猫と出会い、里子に出していくうちにお商売も始めて行きます。お商売も上手く行かなかったからそれで終わりではなく「あんなふうにしたい」「もっとこうしよう」と、どんどん新しいことに挑戦していく姿は元気をいただけました。実際、佐和さんは失敗しながらも良い方向に進んでいきます。事業を始めて行くうえで、アレコレと心配するよりも「まずはやってみようという」という気持ちが大事なのかなと思いました。佐和さんのマインドは自分の中でも持っていたいです。
猫が好きな方ならきっと楽しめる1冊です。子猫を里子に出す時、一緒に喜びと寂しさを噛み締めましたい、猫好きだからこそ佐和さんと一緒に怒ったり、笑ったり出来ると思います。そんな楽しい1冊でした。
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