【読書感想】妖怪の子預かります⑩(終)

読書の時間

忘れてしまうのは、こんなにも辛く恐ろしい

(読んだ本)妖怪の子預かります⑩(作:廣嶋玲子/絵:Minoru/東京創元社)

「これまで」を忘れてしまうのなら、「これから」を新しく作っていけばいい

最終巻のお話

 紅珠との戦いの際に禁忌を犯し、そのツケとして「弥助との記憶」だけが少しずつ徐々に薄れて行く千弥。それを止めることはできず、大切な記憶が消えていくことに不安を隠せません。弥助に悟られまいとしますが、ついに弥助を傷付けてしまいます。これ以上弥助を忘れてしまう事を恐れ、残り少ない記憶とともに、千弥は弥助の元から消えてしまうのでした。

 そんな別れなど到底受け入れられない弥助は妖怪達とともに千弥を見つけるために奔走しますが、果たして千弥を見つけ出すことができるのでしょうか!?

感想

 2人の築いてきた家族のような兄弟のような強く温かい信頼関係が、記憶の欠如という形で崩れていくのを見守る1冊でした。辛い!!でも弥助君の「自分のことを忘れてしまっても、また新しく思い出を作っていけば良い」という言葉にだいぶ救われるものがありました。

 一度失われてしまったけど、きっとこれから、千弥さんから受けた愛と同じか、それ以上のものをその手に抱いた赤子に注いでいくことでしょう。

 これまでとは形は違うけど、これから弥助君と千弥さんの新な物語が紡がれて行くのしょう。しかし傍観者であり観測者である読者はその先の物語を知ることはできません。それでもその先の物語を読みたいと思ってしまうのです!(番外編でも続編でも何でも待ってます、、、)

 それから、小月時代の心の傷が癒えるシーンにジーンときてしまいました。「小月」も「白嵐」も「千弥」もいつだって1人じゃなかったんだなって思うと、千弥さん良かったね~となります。葦音さんマジ小月のお母さん(概念)なので、葦音さんとの思い出もちゃんと一緒に持っていってほしい気持ちもあります!

 メインストーリーはお辛い展開だったのですが、弥助くんは相変わらず子預かり屋の仕事をこなしたり、人魚(この世界の「人魚」は「セイレーンタイプ」ではなく「人面魚タイプ」、お顔は美人)になったり、仲人屋の恋の進展とか、月夜公の津弓への心遣いがイマイチ伝わんなくてギリギリするところ(後で津弓君は自分で気付くので偉い!)とか、久蔵の極まる親バカっぷりとか、「妖怪の子預かります」という作品の優しく温かいところがたくさんあります。最後登場キャラクター全員で千弥さん探しに行くところが個人的に激アツでした。彼らの物語を最後まで見届けられて良かったなと思っております。

 本音を言えば、もう少しだけ彼らの物語を見ていたい気持ちが大きいです!!

 

全10巻を読み終えて

 この「妖怪の子預かります」の全10巻を通して、序盤は千弥さんにべったりそばから離れられないような子供だった弥助君が、色んな人や妖怪と出会い・別れ、嬉しいこと・悲しいことが起き、助けられたこと、助けられなかったことと色んな経験を経て人間として成熟して行きます。物語を通じて人の成長を見届けるのは楽しいですし、自分もまた成長していかねばという気持ちになります。

 それから縁が広がっていくのは良いなと思います。最初はおっかなびっくり、ほぼ罰として始まった弥助君の妖怪の子預かり屋業で友達が増えたり、そこから他の妖怪との縁がつながったり、最後には一緒に大事な人を探してくれるんだから、良い人間(妖怪)関係を築けたんだなと思いました。ひとえに真面目に仕事に取り組んだ弥助君が良い子で偉いんですけどね!

 長い長い人生で、色んな人に出会い、良いこと悪いことを時に受け入れ、時に受け入れることが出来ない中で乗り越え、少しずつ人間として成長していきます。その中で逃げ出したい時だってあるでしょう。そんな時に仲人屋さんが1巻で言っていた言葉、

「同じ出来事でも、受け止められる人・受け止められず壊れてしまう人がいる。壊れるくらいなら逃げて、逃げて逃げた先でまた立て直せばいい」

「逃げ道があることを心のすみに置いておけば、辛くなった時に心が壊れる前に自分自身を助けられるかもしれないよ」

という言葉を思い出して、心の支えにしたいと思います。

今回はここまで。ではまた次の本で。

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